スキャンサーム エレメンツ603フロント

構築し展開する薪ストーブ:環境問題にデザインで応えるスキャンサームの新定番

1981年、薪ストーブからの排出ガスに規制がかけられてしばらく経った時期、スキャンサーム社は創設された。その後10年にしてドイツ・パッシブハウス研究所が省エネ認定住宅を発表。それとともに薪ストーブは低燃焼効率からさらなる高燃焼効率や外気導入など、今日の薪ストーブの礎を築くことになる。

パッシブハウスとは、年間の一次エネルギー消費量を120kWh/㎡にするなど、年間の冷暖房費負荷を15kWh/㎡という条件を満たした住宅のこと。最近の住宅モデルでは人間2人が部屋にいればそれが暖房装置となって、外気温が零下であっても快適に過ごすことができるほどという。ここまで高性能の家となると暖房自体の不要論も出てきそうだが、薪ストーブは今日でも一つの選択肢となっている。それは、欧州では必ずしも薪ストーブが住宅の主暖房ではないからである。

何故現在でも薪ストーブが次々と発表されているのかと言えば、それは薪ストーブに“暖房力”を求めなくなってきているからだ。暖まらない薪ストーブがわが国に定着するには2020年以降までお預けとなるだろうが、欧州ではすでに定着している。では、彼らは薪ストーブに何を求めているのだろうか。答えは“火、炎”を観することで癒しや心理的暖かさを得ているのである。

そうなると、古い設計の大出力を誇る薪ストーブは必然的に不要となり、小さな出力でも炎が美しく燃え上がるものが求められる。小さな出力で美しく炎を保つのはそれなりに難しい。例えば、筐体が十分暖められた後に火が消えそうなので薪をくべる。その時に1本くべるか2本くべるか……。通常ならば筐体の比熱容量に合わせて薪の量を調節しなければならないが、今日の薪ストーブは必ずしもそうとは言えず、1本でも十分である場合がある。

今回ご紹介するスキャンサーム社のエレメンツ603フロントも、見る限りは大柄であるが、火力を抑えることに成功した薪ストーブである。このエレメンツ603フロントの最大出力は6.5kWに抑えられている。隣のページの写真のように炎を大きく燃やしても、暑すぎることがないようにセーブできるシステムをもっているのである。そして、炎を美しく見せるための演出の努力は惜しんでいない。

さて、エレメンツ・シリーズはシュトゥットガルト生まれのヴルフ・シュナイダーによるデザイン。サイズをモジュール化して、薪ストーブの筐体、レッグ、蓄熱体、薪ラックなどさまざまなオプションパーツを組み合わせることが可能で、住宅のレイアウトや生活空間に合わせたハース周りをエレメンツ・シリーズのみで演出できてしまうのが特徴である。

エレメンツはモジュール化という利点を活かして多彩な顔をもつ。隣り合う二面に広くガラス面をとって部屋の広い範囲から炎が楽しめるエレメンツコーナー。そして、今回紹介する「フロント」シリーズでは、さらに2つの異なるサイズの筐体とシースルータイプをラインナップに加えた。400フロントは、幅・奥行き共に400mmのモデルで、今回の試焚モデルの603フロントは幅が603mmで奥行きが400mm。シースルーの603トンネルは603フロントと同様のサイズである。400mmと603mmにモジュール化することで、オプションのボックスも縦に置こうが横に置こうがピタリと収まるようになっている。このコンセプトを実現したシュナイダー氏のアイデアと実現力を褒めるべきであろう。

さらには、スチール製と木製の薪棚やベンチ、木製引き出し、果てはTV台までがモジュール化され、オプションとして用意されている。まさにリビングの家具一式をエレメンツで統一できるのである。

インプレッションは薪ストーブライフNo.28でご覧ください。

文:中村雅美、写真:神村 聖

薪ストーブライフNo.33