ネスターマーティン S43

すべては美しい炎のために

 現存する薪ストーブで最も古いものは、中国・漢時代のキッチンストーブである。馬蹄形のそれは鋳鉄製で、西暦25〜200年に作られたというから驚きである。翻って、現代に生きる老舗薪ストーブメーカーの代表は、北欧のヨツール社とモルソー社である。二社はともに1853年に創業した。実はそのわずか1年後、ベルギーの南部クーバンの町にネスター・マーティン社が創業した。創業者ネスター・マーティンは14歳で社会人となり、父や兄弟とともに農家の納屋にある銅製品を修理する仕事に就いた。1854年、15年間に貯めた幾ばくかの資金を元手に、鋳物産業が盛んなクーバンの地に最初の工場を建てた。

 彼は創業の早い時期から鋳鉄製ストーブの熱効率の良さを見いだし販売し始めた。伝統的な開放型の壁付き暖炉が主流であった当時に、効率の良い密閉型の鋳鉄製ストーブが認められはじめると、次に彼はそのデザインを研究しはじめた。そして1872年、琺瑯の鋳物製ストーブを開発するに至った。この琺瑯製ストーブは、優美なアールヌーボーの特徴的なデザインをもっている。

 今回試焚するS43は、ウッドボックス・テクノロジーと呼ばれる高密閉度の燃焼室によって、高燃焼効率と燃料となる樹種を選ばずに使用ができるというモデルである。S43はヨーロッパスタンダード・バージョンで、二次燃焼は行っているものの、独立した二次燃焼室はもちろん、CB機のような二次燃焼用の独立した空気吹き出し孔さえない独特の燃焼システムである。
このウッドボックス・テクノロジーの開発には5年の歳月がかかった。発案者は当時社長だったRudy Cryis氏。その頃同社ではair washという燃焼方式を採用していたが、Cryis氏はあらかじめ熱せられた空気を燃焼に使用することで、ゆっくりと均一な燃焼が行えないだろうかと考えた。それもガラス窓の近く(燃焼室前半分)ではなく燃焼室の中央できれいに燃やしたい、そうCryis氏は考えた。さっそく試作品がテスト工場に持ち込まれ、試焚が行われた。テスト開始から3日後、工場責任者は驚きを隠せなかった。一酸化炭素排出量が今までにない低い数値を示したのである。こうしてテストと改良を重ね、ようやく18か月後にウッドボックス・テクノロジーが完成したのである。

インプレッションは薪ストーブライフNo.4(富士山マガジンサービス版デジタル雑誌)でご覧ください。

文:中村雅美、写真:滝沢真二

薪ストーブライフNo.33